『揉みくちゃ 獣が潜むラッシュアワー』ZERO
序盤のあらすじ
「ネクタイを緩めながら、新幹線を降りる。「とたんに梅雨時の湿気が俺を包み込み、全身が汗ばん
でいくのがわかる。
「俺はタバコに火をつけ、立ち並ぶ高層ビルを見上げた。」
このように始まる本作は、セリフ等を除いて主人公の一人称視点で語られる。
冒頭の情景描写に始まり、その後いかに梅雨と東京の人ごみと出張がいかに苛立たしい物であるかの説明が12クリック分ほど続き、煙草の副流煙をめぐる何気ない中年男との描写が11クリック分、さらに主人公の仕事がいかにくだらないものであるかの説明が主観的な思い出と感想を交えて28クリック分続く。
この程度で許されると思ったら大間違いだ。
この後乗り込んだ電車がいかに混み合っていて腹立たしいかという描写に23クリック、そこで偶然手が女性の体に触れたと思ったらおばちゃんでガッカリというどうでもいい挿話のために43クリックしたら、ようやくヒロインの顔がご褒美に出てくる。
ヒロインについての描写はそこそこに、主人公がいかに興奮しているかと、この時思わず彼女にはたらいた痴漢行為がいかに甘美な体験であったかの熱っぽい説明がひたすら続く。少し引用してみよう。
「生きている!
「俺は今、かつてないほどに自分が生きていることを実
感した。」(※時制がおかしい気がするが原文ママ)
「手に汗握るスリル。密閉空間に近い電車の中。」(※対句になっていない気がするが原文ママ)
「女子高生のヒップを撫で、肌を密着させてその感触を
堪能する。
「これほどの興奮があっただろうか?
「アドレナリンが全身をかけめぐり、熱い血が冷えてい
た俺の魂を突き動かす。
「これだ!! 俺が探し求めていたのは…!!
「とうとうたどりついたのだ!!」
ヒロインの顔がちょっと恥ずかしそうな顔になったので大丈夫、まだ我慢できる。
この神秘体験めいた文章は電車の急ブレーキによってやっと止まり、この後の再会を予感させる形で一旦痴漢行為も終わる。
その後主人公は本社に向かい、そこでの上司にあたる人物が目の前の女性(攻略対象キャラ)とはなかなか気付かず互いの会話が空回り、そして気付いてドッキリ、というかなりどうでもいい挿話もはさんだ後で、泊まるビジネスホテルがいかにくだらない場所であるかについて30クリック分ほど描写して1日目は終了となる。
よし分かった。お前ちょっと黙れ。
レビュー
久し振りにネットでセーブデータを落とす事に喜びを覚えた。左ボタンを無駄に連打する作業が好きだというのでもなければ、誰しもがセーブデータを落とすべきだろう。
とにかく文章がくだらない。あるいはこうした無駄な描写が後々の伏線になっている可能性も否定できない(なにしろ1日目までしかまともに読んでいないから)が、どんな高度な物語技法を駆使していようとプレイヤーにセーブデータを落とそうと思わせた時点でそいつの負けなのだ。
過剰な比喩や場違いな修飾語が頻発するあたり、多分ユーモアのある(ネット文体的な)文章を書きたかったという理由もあったのだろうが、くだらない男のくだらない独白でそれを表現するという前提がそもそも間違っていて、うまく機能していない。要するに笑えない。
とりあえず女性キャラが感じている描写よりも興奮している主人公の描写を優先する癖は抜きゲーとしても失格級なので何とかしてもらいたいところだ。
CG枚数も痴漢対象は1人平均約10枚(差分除く)程度。それも立ち絵に相当する顔のアップやエンディング用画像、尻のアップやたいして構図の変わらないアニメを含めた枚数なので実感としてはもっと少ない。
今回購入したのは廉価版だからまあこんなものかと許せるが、これが2年半前は税込定価9240円で売られていたかと思うと驚きを禁じ得ない。逆に言えば今が買い時と言えなくも無いが。
売りの一つであるアニメーションだが、正直クオリティはそれほど高くない。絵が崩れている訳では無いのだが、秒間コマ数が少なくガタガタして見えるのがまずマイナスだ。そしてせっかくのアニメーションなのに動きにダイナミックさが欠けており、表情も体勢もたいして変化しないというのがいただけない。もっともこの少ないコマ数でダイナミックに動くと本当に何が起きているのか分からなくなるだろうから、これが限度なのかもしれないが。一応胸揺れはしているので、そこは評価したい。
一方静止画は顔や胸・尻のアップばかりで痴漢を受けている全身像がほとんど存在しないというあたりいかにも分かっていないが、それを言えばそれ以外の構図もほとんど存在しないので、そもそも画の絶対数が少ない物と思って割り切るべきか。キャラデザインは万人向けで良く出来ている。
廉価版のさらに割引価格なら、同人ゲームより遥かにいい出来という意味で確かに価値はある。色々と期待せずに買う事ができる人向け。
(2006/04/09)